
「L'HAY LES ROSES―ライ・レ・ローズと読む。パリから車で小一時間ほどなこの町の薔薇園は、小体な薔薇博物館や、オールド・ローズの生きたコレクションで知られているが、何より深い森を控え、風に騒立つ木々の神託に似た響きを聞きながらその入り口に佇つとき、薔薇への夢、薔薇への思いのすべてが叶えられることを誰もが知るに違いない。なぜって、そこは薔薇の迷路なのだ。H・W系の古風なピンクのそよぎ。六月の緑濃い風。」
宮廷画家ルドゥーテの薔薇、バガテルの薔薇コンクール、L'Hay-les Rosesの美しい薔薇園。古くから薔薇に魅了され続けてきたフランスだからこそ、フランスの薔薇アンティークは一際格調高く美しい。クロモカードはチョコレート会社のもの。薔薇とチョコレートの噎せ返るほどの甘さを想像してしまう。冬風景に佇む薔薇、エンボスで高級感のある薔薇。華美になりすぎなず、シックで朽ちた雰囲気が漂うのは、アンティークだからこそ。Lorenzy Palancaの薔薇香水ラベルとのセット。

あるいは、古いデッドストックのEau des Roses、薔薇水の香水ラベル2種。一枚には、丸みのある円錐形に優美なピンクローズが巻きつき、もう一枚には金のエンブレムが輝く。この風格漂う美しい香水ラベルは、フラゴナール社もある南仏グラースから。薔薇の詩集の贅沢な栞として、グラシン紙の封筒に忍ばせても素敵。
冒頭の引用文は、中井英夫が1974年にヨーロッパにて薔薇と香りをを旅した実用書ならぬ虚用書、『薔薇幻視』より。フランスでは、ライ・レ・ローズだけではなく、毎年6月に薔薇コンクールが開催されるバガテルの薔薇園などにも訪れている。ちなみに彼が訪れた74年度は、金賞・銀賞・芳香賞、そのどれもがノン・デセルネ―受賞者なしというハプニングに終わったと言う。
清岡卓行の『薔薇ぐるい』という本があるけれども、昔、私はまさに薔薇ぐるいで、とくに薔薇の詩を蒐集するのが好きだった。
・鬱金色の月に釣られる盲目のただよへる薔薇(大手拓次)
・翅のおとを聴かんとして、水鏡する喪心のあゆみゆく薔薇。(大手拓次)
・うたゝ寝のうたゝ苦しき夢さめて汗ふき居れば薔薇の花散る(正岡子規)
・深夜の蜜雲の一角を破り、陥ちこんできた月光のスポット・ライトが闇黒の湖面に咲かせた一輪の薔薇。(「湖上の薔薇」河邨文一郎)
・壺には、萎みゆくままに、
取り換へない白茶色の薔薇の花。
その横の廉物の仏蘭西皿に
腐りゆく林檎と華櫚の果。
是等の花と果実から
ほのかに、ほのかに立ち昇る
佳き香の音楽、
わたしは是れを聴くことが好きだ。
盛りの花のみを愛でた
青春の日と事変わり、
わたしは今、
命の秋の
身も世もあらぬ寂しさに、
深刻の愛と
頽唐の美と
是等に半死の心臓を温めながら、
常に真珠の涙を待ってゐる。(「腐りゆく匂ひ」与謝野晶子)
薔薇のアンティーククロモカード、香水ラベルは、
Le Petit Palais de Papier 『薔薇幻視』、『薔薇ぐるい』は、
屋根裏本にて。